診療支援
治療

有機リン・カーバメイト中毒
organophosphate and carbamate poisoning
薬師寺泰匡
(薬師寺慈恵会薬師寺慈恵病院・院長(岡山))

頻度 あまりみない

ニュートピックス

・ノビチョクなど,化学兵器としての懸念が高まっている.

治療のポイント

・コリン作動性中毒であることに早期に気づき,初期蘇生を行う.

・支持療法を行いつつ,2次汚染を避ける.

・集中治療を要する場合が多く,適切な医療機関での治療が望まれる.

◆病態と診断

A病態

・農薬や化学兵器(サリン,ソマン,タブン,VX,ノビチョクなど)に含まれる.

・有機リン化合物やカーバメイト化合物は,赤血球膜のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害し,神経シナプスでのアセチルコリン濃度を高める.カーバメイト化合物は曝露から約48時間以内に自然に消失するが,有機リン化合物は不可逆的にAChEを阻害する.

・ムスカリン様受容体刺激の結果,体液過剰となる(流涎,流涙,気管支分泌過多,尿および便失禁,嘔吐)ほか,気管支収縮縮瞳徐脈心臓の伝導障害低血圧を起こし,中枢神経症状として不安,興奮,錯乱,けいれん,呼吸失調や人格障害も起こる.

・神経筋接合部の作用では筋線維性束性れん縮,けいれん,筋力低下を起こす.

B診断

・症状と,特有の臭いから疑う.

・有機リン系農薬検出キット,薄層クロマトグラフィによる迅速検査が可能.血清ChE値も参考になるが,AChE活性の測定が望ましい.

・高速液体クロマトグラフ法やガスクロマトグラフ法で血清濃度を測定可能.

◆治療方針

 中毒全般にいえることだが,除染と初期蘇生が重要である.気道分泌物の増加や気管支れん縮で呼吸状態が悪化すると致命的となるほか,意識障害も合併している場合が多く,気管挿管と人工呼吸が必要となる.また徐脈,低血圧となる場合もあり,十分量の輸液を行う必要がある.薬物療法を行う場合もある.

A除染

 局所曝露に対し,衣類を脱がせて体表面を流水で徹底的に洗う.2次被害を避けるため換気に留意する.経口摂取の場合,1時間以内であれば活性炭が有効.催吐は禁

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