Ⅰ.環系(三環系および四環系)抗うつ薬中毒
治療のポイント
・QRS時間延長や血圧低下を認めた場合には,血液アルカリ化とNa負荷のため炭酸水素ナトリウムを投与する.
◆病態と診断
A病態
・三環系抗うつ薬はNaチャネル阻害による心筋抑制や心室性不整脈,けいれん,α1 受容体阻害による低血圧,ヒスタミンH1 受容体阻害作用による鎮静,抗コリン作用による散瞳,頻脈,腸蠕動低下,尿閉,意識障害をきたす.
・心電図変化が重要で,Naチャネル阻害により活動電位立ち上がり速度を抑えQRS時間延長をきたす.
B診断
・これらの製剤を大量服用した病歴があれば疑う.
・尿中薬物検査キットは簡易で有用であるが,偽陽性,偽陰性に注意が必要.
・12誘導心電図は致死性不整脈やけいれんの予測に有用である.QRS時間延長(>100ミリ秒),aVRでのR波増高(>3mm)の場合は,心室性不整脈やけいれんの発生リスクが高い.
◆治療方針
胃洗浄・活性炭の投与に関しては「急性中毒治療の原則」の項(→)を参照.血液浄化療法は無効.
QRS時間延長(>100ミリ秒)や血圧低下,心室性不整脈を認めた場合には,炭酸水素ナトリウムによる血液アルカリ化とNa負荷が重要である.
Px処方例
炭酸水素ナトリウム(メイロン薬)注(8.4%;1mEq/mL) 1回1~2mEq/kg 数分で静注.血液pH7.45~7.55の範囲でコントロールし,繰り返し投与可能
治療開始は心電図で判断し,治療終了は全身状態とバイタルで判断する.
低血圧が持続する場合にはノルアドレナリン,アドレナリン,グルカゴンを使用する.難治性の低血圧・心室性不整脈に対しては,循環補助デバイス(体外式ペースメーカ,大動脈バルーンパンピング)や経皮的心肺補助を考慮する.標準治療で反応しない場合には静注脂肪乳剤が理論上有効であるが,評価は定まっていない.
Px処方例
イントラリポス薬輸液(
関連リンク
- 今日の治療指針2024年版/急性中毒治療の原則
- 治療薬マニュアル2024/炭酸水素ナトリウム《炭酸水素ナトリウム 炭酸水素Na メイロン》
- 治療薬マニュアル2024/合剤 《イントラリポス》
- 今日の治療指針2023年版/環系(三環系および四環系)抗うつ薬中毒,炭酸リチウム中毒
- 今日の治療指針2023年版/キサンチン誘導体中毒(テオフィリン中毒・カフェイン中毒)
- 今日の治療指針2024年版/エサキセレノン
- 今日の治療指針2024年版/グリホサート・グルホシネート中毒
- 今日の治療指針2024年版/キサンチン誘導体中毒(テオフィリン中毒・カフェイン中毒)
- 今日の治療指針2024年版/トリカブト中毒
- 今日の救急治療指針 第2版/解熱鎮痛薬・循環呼吸系薬・外用薬中毒
- 今日の救急治療指針 第2版/3)降圧薬,血管拡張薬,利尿薬
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[12]アスピリン
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[17]カルシウム拮抗薬