頻度 あまりみない
治療のポイント
・2次被害予防のため,接触する際には必要に応じて防毒マスクの装着や除染としての脱衣を行う.
・発生場所からすみやかに移動をさせてから全身管理を行う.
・化学性肺炎や急性呼吸促迫症候群(ARDS)を起こし重症化する場合がある.
・化学兵器としてテロなどで使用される可能性がある.
◆病態と診断
A病態
・塩素ガスは,特有な刺激臭をもつ黄緑色で空気より2.5倍重い気体であり,水に中等度溶ける.
・塩素ガスは水(湿った粘膜など)と反応することで,塩酸と次亜塩素酸を生成する(Cl2+H2O→HCl+HClO)
・塩酸は酸として刺激性を発揮し,次亜塩素酸は酸素フリーラジカルによって強い酸化作用を発揮する.
・塩素ガス中毒の重症度は,曝露濃度および曝露時間による.
・人体の許容濃度は0.5ppmとされ,1ppmで刺激臭が強くなる.3~6ppmで眼や鼻・咽頭に刺激症状をきたし,90ppmで即死する.
・人体に曝露すると,水分のある眼球,鼻腔,口腔,上気道粘膜と接触し刺激症状をきたす.
・気管支,細気管支,肺胞などの下気道の粘膜にも広範囲に吸収されると,化学性肺炎やARDSをきたす.
B診断
・塩素ガスの曝露をきたす状況と訴え,症状で塩素ガス中毒を疑う.
1.曝露をきたす状況
・塩素ガスを使用している化学工場や,プール・水道水の殺菌などによる発生.
・家庭内では,次亜塩素酸ナトリウムを含有する「塩素系漂白剤」や「塩素系カビ取り剤」と塩酸を含む「酸性洗浄剤」の混合により塩素ガスが発生する.塩酸以外でも,酢酸や酸性の洗剤などpHを低下させる働きのある物質の存在下においても塩素ガスを発生させる.
2.訴え
・「刺激臭がした」という訴え.
3.症状
・眼症状:眼の灼熱痛,流涙,結膜の充血.
・鼻,咽頭,喉頭症状:鼻,咽頭,喉頭の灼熱痛,口咽頭乾燥感,嗄声.
・呼吸器症状:クループ様咳嗽,呼吸困難,喘鳴,胸痛.