◆病態と診断

A病態

・硫化水素は自然界に広く存在する毒性ガスで，腐卵臭を呈し空気よりやや重い．火山や温泉のほか，工場，下水道，マンホール，ゴミ処理場などでも発生する．

・硫黄成分を含む入浴剤や農薬などの一般家庭用化学物質と酸性洗浄剤を混合し，硫化水素を発生させて自殺をはかるケースもある．

・全身毒性は，ミトコンドリア内のチトクロム酸化酵素複合体に，シアンよりも高い親和性で結合した結果，細胞が低酸素状態になり嫌気性代謝が起こることによる．

・主な標的臓器は，中枢神経系（頭痛，脱力，失神，けいれん），心臓系（胸痛，徐脈，心停止），呼吸器系（呼吸困難，チアノーゼ，呼吸停止など）である．

・明確な用量反応を示す〔20～30ppm：腐卵臭，100～150ppm：嗅覚神経麻痺，500ppm以上：急激な意識消失（「ノックダウン」）や心肺停止を含む全身的な影響〕．

・低濃度曝露では，心因性疾患に酷似した非特異的な症状を呈す．

・診断は，臨床診断，急性曝露の確認，職業上または消防機関によるガス検知器による．

・衣服についた腐卵臭や，血液，呼気，胃液からの臭い，銀製の装身具の黒ずみは，曝露を示唆する．

・密閉空間で意識を失っていた場合には鑑別疾患として挙げる．

・動脈血液ガス分析では，代謝性アシドーシス（アニオンギャップ開大），血清乳酸濃度の上昇（非特異的）がみられる．

　代謝経路を通じた硫化水素の消費を促すため，早急に最大限の酸素化を行う．呼吸不全に対しては人工呼吸管理を行い，適切な呼気終末陽圧（PEEP）をかけ，低血圧に対しては血管収縮薬を使用する．転倒による頭部外傷などにも留意する．最適