頻度 あまりみない
GL寄生虫症薬物治療の手引き-2020-改訂第10.2版
◆病態と診断
A概要
・鞭虫症は線虫類のTrichuris trichiuraの感染によって起こる.英語ではwhip wormといわれる.世界では6~10億人が感染していると推定されている.開発途上国に多い土壌媒介性の寄生虫であり,顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases)の1つである.
・鞭虫は主として回盲部から結腸の粘膜に頭部を刺入させ吸血する.成虫の大きさは約4cmで,頭部が細く尾部が太いため鞭のようにみえる.このためこのような名前が付いた.
・感染は虫卵に汚染された食物(野菜など)を経口摂取することで成立する.
・予防方法は,個々人としては,流行地域での生の食材を避けること,熱を加えた調理を適切に行うこと,公衆衛生学的には保虫者の糞便を適切に処理すること,すなわち衛生環境の整備である.
B症状・徴候
・少数寄生では無症状のこともあるが,多数寄生すると異食症,腹痛,下痢,下血,貧血をきたす.
・寄生率が高く,下痢が頻回に起こる場合では直腸脱を引き起こすこともある.
・わが国では感染率が高くない場合が多く,無症状で偶然みつかる場合が多い.
C検査・診断
・診断は一対の成虫が,1gあたりの糞便中に1日約200個産卵するため,診断は顕微鏡で岐阜提灯型の卵を確認することで可能である.
・検査方法は,多数寄生の場合には生理食塩液を用いた直接塗抹法で検出可能であるが,少数寄生の場合,虫卵が重いためホルマリンエーテル法などの遠心沈殿法による集卵を行う.
・虫卵は長径40~50μm,短径23μmである.両端に蓋を有するため,虫卵の大きさが似通っている横川吸虫卵や肝吸虫卵との鑑別は容易である.
・偶然,大腸内視鏡検査で回盲部粘膜に頭部を侵入させている虫体を確認することもある.粘膜は発赤し,浮腫状になっている