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治療

慢性甲状腺炎(橋本病)
chronic thyroiditis(Hashimoto's disease)
田上哲也
(国立病院機構京都医療センター・内分泌・代謝内科診療部長)

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GL慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン2021

GL無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン2021

治療のポイント

・橋本病の有病率は高いが,橋本病自体の治療法はないので甲状腺機能異常をきたしたときに治療する.

・甲状腺機能低下症では,それが一過性か永続性かを見極めてから治療を開始する.

・甲状腺中毒症(無痛性甲状腺炎の急性期)では,バセドウ病と間違って治療しないことが重要である.

◆病態と診断

A病態

・橋本病は自己免疫機序による慢性の甲状腺炎(臓器特異的自己免疫疾患)である.病理学的には甲状腺組織における「リンパ球のびまん性浸潤とリンパ濾胞の形成,および甲状腺濾胞上皮細胞の変性と結合組織の新生」を認める.進行すると,濾胞上皮細胞の変性によるホルモン合成障害とリンパ球浸潤による濾胞破壊によって血中へのホルモン分泌が減少し,甲状腺機能低下症をきたす.橋本病の有病率は高く,中年女性の約20%が甲状腺自己抗体(サイログロブリン抗体または甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)をもつ.

・橋本病は甲状腺機能低下症の最も多い原因疾患であるが,橋本病のほうからみると甲状腺機能低下症を示すのは約10%である.

・橋本病は,時に急性の破壊性甲状腺炎を引き起こす(無痛性甲状腺炎とよばれる).濾胞腔に備蓄されていた大量の甲状腺ホルモンが血中に流出し,一過性の甲状腺中毒症をきたす.1~2か月後にいったん低下症になったのち,自然に回復する(一部は永続性の機能低下症に移行).出産後や薬剤性が多い.急性期(中毒症期)では永続性の甲状腺機能亢進症であるバセドウ病との鑑別が重要である.また,まれではあるが,有痛性の破壊性甲状腺炎(橋本病の急性増悪という)を引き起こし,亜急性甲状腺との鑑別が必要となる.

B診断

・本来は病理学的検査が必要であるが,上述の血中抗甲状腺自己抗体の確認により診断できる.典型的には,甲状腺はびまん性に

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