診療支援
治療

ボツリヌス毒素(BTX)療法
botulinum toxin(BTX)therapy
坪井義夫
(福岡大学教授・脳神経内科学)

頻度‍ 

治療のポイント

・ボツリヌス毒素(BTX)療法は,神経筋接合部の遮断による筋緊張の緩和が期待でき,眼瞼けいれん,片側顔面けいれん,痙性斜頸,上肢・下肢痙縮などが適応となる.

・BTX療法の効果持続期間は約3か月であり,繰り返し治療を施行する必要がある.

・痙性斜頸,上下肢痙縮では複数筋の関与があり,解剖学的正確性を担保するためには超音波検査,筋電図検査,および電気刺激による原因筋の同定が望ましい.

 BTX療法では神経筋接合部での過剰な化学的伝導を神経終板で阻害し,筋緊張を緩和することで各種疾患の過剰な筋収縮を抑制して治療効果を得る.1996年に眼瞼けいれんに対して使用が認められ,その後片側顔面けいれん,痙性斜頸,上肢痙縮,下肢痙縮,2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足,重度の原発性腋窩多汗症,斜視,けいれん性発声障害,既存治療で効果不十分または既存治療が適さない過活動膀胱における尿意切迫感,頻尿および切迫性尿失禁,既存治療で効果不十分または既存治療が適さない神経因性膀胱による尿失禁の適応が追加され,計11疾患あるいは症状に対して使用される.新しいA型ボツリヌス毒素であるインコボツリヌストキシンAが2020年6月に上肢痙縮に適応され,2021年6月に下肢痙縮へ適応拡大された.この薬剤はA型ボツリヌス菌から産生されるA型ボツリヌス毒素から複合蛋白質を取り除き,神経毒素成分のみを有効成分とした薬剤である.現在の適応は上肢・下肢痙縮のみである.この項では眼瞼けいれん,片側顔面けいれん,痙性斜頸,上肢痙縮,下肢痙縮に的を絞って解説する.

◆病態と診断

・眼瞼けいれんは不随意に閉眼してしまう眼周囲筋の異常収縮による症状で,局所ジストニアに分類される.

・片側顔面けいれんは顔面神経の過剰な興奮により片側顔面筋の不随意な収縮が生じる.原因は,顔面神経がそのroot exit z

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