診療支援
治療

精神科医療におけるインフォームド・コンセント
informed consent in psychiatric service
福田正人
(群馬大学大学院主任教授・神経精神医学)

Aインフォームド・コンセントと精神疾患

 インフォームド・コンセント(IC:informed consent)は,患者が医療についての情報や状況を正しく理解でき,理解にもとづく合理的な判断が可能で,その判断に従って行動できることを前提とした,治療合意についての考え方である.この前提が成立しない場合があることが,精神疾患の特徴である.

 精神疾患についてこの前提を考えるとき,ポイントが4点ある.第1は安定性で,こうした能力が精神疾患では変動しやすい.第2は連続性で,その「前提が成立しない」程度は連続的である.第3は特異性で,一般的能力ではなく「精神科医療に関する能力」についての判断が求められる.第4は客観性で,上記の「正しく」「合理的な」「従って」の意味は,立場により異なる.

B共同創造としての共同意思決定

 この議論の基礎となるのは,精神疾患があるか,それを治療するか,治療で何を目指すかという精神医療の根本だが,その考え方は当事者・支援者・市民・医療者でそれぞれ異なる.それは疾患の治療が,医療者にとって目的であるのに対し,当事者にとっては生活と人生をよりよくするための手段であるという,食い違いに基づく.

 こうした当事者と医療者の違いを,対話を重ねることで認識し合意を目指す過程が共同意思決定(SDM:shared decision making)で,共同創造co-productionのひとつである.治療法の選択という以上に,精神疾患の特徴を踏まえたその具体的なあり方が今後の課題となる.

C非自発入院

 精神病棟への入院にICが得られない場合,精神保健福祉法は医療保護入院や措置入院という非自発入院を定めている.精神保健指定医の判断に基づいて,医療保護入院は家族等の同意で,措置入院は知事の権限で行われる.憲法で保障されている身体の自由の制限を,司法や行政の実質的な関与なしに行う点が,法体系の

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