診療支援
治療

児童虐待(養育者への対応)
child abuse(help for batterers)
森田展彰
(筑波大学大学院准教授・社会精神保健学)

A基本的な考え方

 児童虐待は,貧困などの環境要因を含む多要因により生じる養育者による子どもの権利侵害であり,その心身の発達を阻害するものである.虐待は「疾患」ではないため「治療」といえないが,繰り返し虐待行為を行っている人の場合には,子育てに関する認知や養育上の問題行動パターンを変える働きかけが必要である.

B評価

 まずは厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」などを参考に,具体的な虐待か否かの判断を行う.さらに評価すべき虐待リスクの要因を挙げると,個人要因としては,若い,片親,ステップファミリー,子どもが多いこと,教育歴や収入が低いこと,育児ストレスや経済的ストレス,親自身の被虐待体験,子どものニーズや発達への無理解,体罰や暴力を正当化する態度,養育スキルの低さ,薬物やアルコールの問題,うつ病などの精神的な問題などである.また,家族要因としては,社会的孤立,家庭内で暴力対立が激しく,コミュニケーションスタイルが否定的な家庭などがある.

C介入・支援の指針

1.虐待通告など

 虐待のおそれがある事例の場合には,まず児童相談所,市区町村などに通告することが,直接の働きかけ以上に必要になる.直接的な働きかけを行う場合でもそうした機関と連携して行うことが大事になる.通告や市区町村の要保護児童対策地域協議会での話し合いは,守秘義務を超えて行えることが法的に保障されている.

2.支持的アプローチ

 養育困難の背景にある貧困などの社会経済的な問題,生活上の困難に関する支持的ケースワークがまずは重要である.

3.自分の暴力の受け止め

 虐待とは何なのか,子どもにどのような影響があるのかを示し,養育者が自分の虐待について認識することを助け,行動変容を促す.

4.怒りや暴力行動に対する認知行動的アプローチ

 自分の虐待を行った場面において,虐待につながる認知(例:「子どもや女性は,親や夫のいうことを聞くべきだ」「

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