診療支援
治療

減圧障害
decompression illness(DCI)
和田孝次郎
(防衛医科大学校教授・脳神経外科学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・搬送中からリザーバー付マスクでの酸素吸入(10L/分以上)を行う.

・米海軍治療表を用いた高気圧酸素治療(最大治療圧2.8気圧)が基本である.

・水分摂取が不十分な場合も少なくないので,当初から点滴による補液を念頭におく.

◆病態と診断

A病態

・減圧障害は減圧症と動脈ガス塞栓症を合わせた病名である.

・減圧障害はスクーバダイビングや潜函工事,時に飛行機や宇宙飛行士による高所移動によって引き起こされる.

・減圧症は,体内組織に環境圧と曝露時間に従って吸収・蓄積された窒素(不活性ガス)が,減圧により過飽和状態となって形成された気泡により起こる.

・深く長いスクーバダイビングほど体内に窒素は多く取り込まれるため,減圧症のリスクが高まる.

・動脈ガス塞栓症は,急浮上などによる急激な減圧で肺が過膨張し(肺過膨張症候群)肺胞破裂の結果起こる空気(呼吸ガス)塞栓症である.

B診断

・ダイビングプロファイル(深度,滞底時間,回数,気温,水温,急速浮上の有無),症状出現のタイミング(浮上時あるいは浮上後の症状の時間的経過)などの情報を集める.

・症状は,軽症では関節痛(ベンズ),全身倦怠感,皮膚の瘙痒感やむくみであり,重症では大理石様皮膚脳脊髄局所症状(意識障害,麻痺,言語障害,めまい,難聴,尿閉),呼吸苦(チョークス),胸痛である.

・体内に取り込まれた窒素量はヘンプルマンのQ値=深度(m)×√(時間(分))として類推することができる.Q値が100以下では減圧症の可能性は低い.

・動脈ガス塞栓症は,スクーバダイビング中のパニックなど10m以浅での急浮上時に起こすことが多い.症状は浮上後すぐ(60分以内)に発現し,脳卒中様の症状(意識障害,麻痺,言語障害,めまい)を引き起こす.

・CTやMRIなどの画像検査で気泡が同定されることはまれである.

・胸部画像で肺水腫や,気胸の合併を発見でき

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