頻度 ときどきみる
治療のポイント
・脱臼はすみやかな整復を要する.
・若年者と高齢者では責任病変が異なる.
・反復性脱臼は手術を要する.
多くは前方脱臼で,後方脱臼はまれなので,ここでは前方脱臼について述べる.
◆病態と診断
A病態
・若年者では関節窩前方の関節唇の剥離(Bankart病変)が責任病変であることが多く,再脱臼率が高い(90%以上).
・高齢者では腱板広範囲断裂が責任病変であることがある.
・反復性の場合は軽微な外力や寝返り程度の力でも脱臼することがある.
・脱臼を繰り返すと骨欠損が拡大する.
B診断
1.外傷性脱臼
・転倒などのエピソードを契機に,肩の激痛とともに患肢を動かせなくなる(dead arm).
・脱臼した骨頭が腋窩部で神経叢を圧迫し麻痺を生じることがある.
・X線で必ず2方向以上撮影して脱臼を確認する.
・関節窩骨折や大結節骨折を合併することがある.
2.反復性脱臼
・過去に外傷契機の脱臼または亜脱臼のエピソードがある.
・肩外転外旋位で脱臼不安感がある(anterior apprehension test)が,不安定性が強い場合には30度程度の軽度の外転外旋位からでも脱臼不安感を生じる.
・CTで関節窩前下方の骨欠損や小骨片がみられることがあり,上腕骨頭の後上方にはクレーター状の陥凹がみられる(Hill-Sachs病変).
・MRIではBankart病変を確認する.関節包損傷や上腕骨側で肩甲上腕関節靭帯が剥離していることもあるが,MRIでの描出は困難である.
・高齢者ではBankart病変を伴わない腱板広範囲断裂がみられることがある.
◆治療方針
A外傷性脱臼
すみやかにzero position牽引法,Stimson法などの愛護的な整復を行う.なお,高齢者では整復操作で骨折を生じるリスクがある.また,無麻酔での整復が困難な場合は静脈麻酔や腕神経叢ブロックを行う.
高齢者では骨片や軟部組織