Ⅰ.鼠径ヘルニア
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◆病態と診断
A病態
・小児の鼠径ヘルニアは,開存した腹膜鞘状突起内に腹腔内臓器が脱出する外鼠径ヘルニアが大部分である.
・腹膜鞘状突起は,男児では胎生期後半の精巣下降に伴って突出した腹膜の一部である.女児では子宮円索の形成に伴って発生しNuck管とよぶ.
・右側に多く,発生率は男児で1~5%,女児で1~2%とされるが,早産児や低出生体重児では発生頻度が高くなる.
・脱出臓器は腸管・大網が多く,女児では卵巣の脱出も認める.
B診断
・家族が鼠径部の膨隆または陰嚢の腫脹に気づき来院することが多い.
・啼泣時や立位時など腹圧をかけた際の膨隆確認が重要である.非脱出時にはシルクサイン(ヘルニア嚢同士が擦れることによる絹のような感覚)が診断の手助けとなる.
・画像所見では,超音波による腹腔内臓器の脱出確認が重要である.
◆治療方針
嵌頓(脱出した腹腔内臓器が非還納となり血流障害を伴った状態)を生じる場合があるため,外科手術が必要である.筆者の施設では予防接種が一段落する生後半年以降を手術の目安としている.
治療の原則はヘルニア嚢(腹膜鞘状突起)の高位結紮である.近年,腹腔鏡下にヘルニア門を閉鎖するLPEC法(laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure)も普及している.
■専門医へのコンサルト
・診断および治療時期の決定において医師の技量と習熟が必要であるため,鼠径ヘルニアが疑われた時点で早期に小児外科専門医へ紹介する.
■帰してはいけない患者
・脱出臓器の用手還納が困難な症例,嘔吐などの消化器症状を伴う場合は,すみやかに小児外科専門医へ紹介する.
■患者・家族説明のポイント
・膨隆時の写真を持参することが診断のサポートとなる.
・不機嫌や疼痛を伴った鼠径部膨隆を認めた場合は,嵌頓を生じている可能性があるため,すみやかに医療機関を受