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治療

顎関節症(顎関節脱臼を含む)
temporomandibular disorders(including luxation of the temporomandibular joint)
長谷剛志
(公立能登総合病院・歯科口腔外科部長(石川))

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Ⅰ.顎関節症

◆病態と診断

A病態

・顎関節症は,咀嚼筋痛障害(Ⅰ型),顎関節痛障害(Ⅱ型),顎関節円板障害(Ⅲ型),変形性顎関節症(Ⅳ型)に分類される(日本顎関節学会,2013).

・男女比は1:3で女性に多く,年齢では10代後半から多くなり,20~30代が最も多く,高齢になるほど患者数が減少する傾向にある.

B診断

・顎関節症と診断するための必要条件は,①顎関節や咀嚼筋など(咬筋,側頭筋,内側および外側翼突筋の4筋のほかに顎二腹筋,胸鎖乳突筋を含む)の疼痛,②関節(雑)音,③開口障害ないし顎運動異常の主要症候,のうち少なくとも1つ以上の症状を呈する病態が顎関節症である.

・最も多い「Ⅲ型」の関節円板転位に起因する顎運動障害や「Ⅳ型」の退行性病変,および「Ⅱ型」の関節包・滑膜炎に対する確定診断のためには,硬・軟両組織が同時に観察できるMRIが有用である.

◆治療方針

 症状が再燃することはあるものの進行性疾患ではなく,放置した場合(自然経過)でも発症後2年半で約7割の患者において,「痛い」「口が開けにくい」といった症状が改善するといわれている.

 治療の目標は症状の消失による日常生活動作の改善である.普段の悪習癖やストレスが誘因となりやすいことから,患者のセルフケアと薬物療法,理学療法,スプリント(マウスピース)療法などが重視される.まずは,病状の理解と管理が大切で,食いしばりの防止と正しい姿勢,就寝時のスプリント(マウスピース)装着,筋マッサージと温熱療法が主となる.

 治療にあたっては患者個々で病態を的確に診断し,病態にあった治療法を選択する必要がある.筋肉が障害されているタイプでは筋肉の痛みや凝りに効果的な治療を,顎関節が障害されたタイプでは顎関節の症状に合わせて治療法が選択される.

 顎関節の可動域を示す開口量は,上下顎中切歯間の距離で表され,わが国の平均値は男性48~55

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