診療支援
治療

Ⅳ.高齢者特有の病態・生理と薬の効果
遠藤英俊
(聖路加国際大学・臨床教授)


1.疾病・病態

 高齢者に特有の病気は存在する.加齢とともに増加し,年齢に依存しており,若い人にはあまりみられない病気である.例えば骨粗鬆症や認知症はまれに若い人でもみられるが,ほとんどは高齢者であり,パーキンソン病などでもまれなケースを除けば高齢者である.多くの場合はいくつもの疾患が合併しており,時には治療の優先順位をつけて診療にあたるなど,高齢者を総合的に診ることが求められている.高齢者に多い病気は慢性疾患であることが多く,時に肺炎や心不全などは急性増悪することがある.

 高齢者の病気の症状は感染症があっても発熱しない場合があったりして,症状が非定型的である場合がある.症状が時に潜在的でわかりにくい場合もある.

 また高齢者では成人ではあまりみられない主な症状,すなわち老年症候群が存在し,主なものは認知症や尿失禁,転倒・骨折である.最近では嚥下障害が大きな問題となっており,経口摂取が困難になった場合の医療やケアが課題となっている.また頻度は低いがかゆみなどさまざまな症状も存在する.また高齢者に多い病気や病態もあり,図2に示す.急性疾患関連の症候群は年齢とともに大きくは変化しないが,慢性疾患関連の症候群は65歳以上の前期高齢者から増加し,要介護関連の症候群は75歳以上の後期高齢者で増加する傾向が認められる.

 高齢者は個人差が大きく,加齢に伴い全体的にみれば種々の生理的な機能低下をきたす.ただし最近の研究結果では,健常高齢者では心機能や,腎機能は低下しないという報告がみられるようになった.つまり85歳以上の超高齢者になっても身体的にも,精神的にも健康上問題がない高齢者も増えてきているため,一概に高齢者は虚弱であるという考え方はやめるべきであろう.とはいっても40歳代から視力低下や持久力などの機能低下を認めることはよくあることであり,高齢者を対象にした研究や,高齢者の医療や福祉の

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