一般的に,経口投与された薬物は消化管(主に上部小腸)から吸収され,門脈を経て肝に至り,肝の薬物代謝酵素により代謝される(図1図).多くの薬物は脂溶性であり,細胞のリン脂質二重膜や脂肪滴内に蓄積しやすいため,そのままでは体内から排泄されにくい.薬物代謝酵素は薬物の薬理活性を変化させるとともに,薬物の極性を増して(水に溶けやすくなる)尿中あるいは胆汁中に排泄されやすい形に変換する役割を担っている.
血中では薬物は血漿蛋白と結合した結合型あるいは結合していない非結合型として存在しており,このうち非結合型薬物が生体膜を通過して細胞内で作用を発現する(図1図).一方,分子量が大きい結合型薬物は,組織内に分布することができず,さらに肝での代謝や糸球体ろ過も受けないため,血中に留まりやすい.なお,酸性薬物は主にアルブミン,塩基性薬物は主にα1酸性糖蛋白に結合する.非結合型薬物は血中と組織内で平衡状態になるために,薬物の血中蛋白結合率は作用部位における薬物の濃度にも影響を与える.
このように薬物の体内動態には吸収,分布,代謝,排泄の各過程が関与しており,肝障害時や腎障害時にはこれらの複数の過程に変化が生じる.
A.肝障害時の変化
(表1A図)
1.肝流入量の変化
肝硬変などで門脈圧が亢進したときには,門脈血流が減少し門脈側副血行路(シャント)が発達する.そのため,消化管から吸収された薬物の一部は,肝を通過せずに直接大循環に流入するようになる.肝固有クリアランス(肝薬物代謝酵素活性)が大である薬物の場合には,肝血流量の低下は肝初回通過効果の減弱とその後の肝代謝の減少をもたらし,血中未変化体濃度が著明に上昇する.このような薬物は肝血流律速型薬物とよばれており,代表的なものにはプロプラノロール薬薬,ニフェジピン薬,リドカイン薬などがある.
2.肝代謝の減少
一般的に,肝細胞1個当たりの薬物代謝能には十
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