診療支援
治療

Ⅰ.総論
谷川原祐介
(慶應義塾大学特任教授(殿町先端研究教育連携スクエア))
鈴木 小夜
(慶應義塾大学教授(薬学部・医療薬学・社会連携センター医療薬学部門))


A.臨床的意義

 血中薬物濃度測定に基づいて薬物の投与量・投与方法を個別最適化する方法を,薬物治療モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)という.TDMの臨床的意義は,薬物作用の個人差を克服し,すべての患者に有効かつ安全な薬物治療を提供することにある.

 一般に,薬理作用は標的組織に到達した薬物濃度に依存するが,血中濃度が作用部位濃度と平衡関係にあれば,臨床的に測定が容易な血中濃度を代理指標として薬効強度を推定することができる.したがって,血中薬物濃度と薬効間に相関関係が成り立つことがTDMを実施する前提となる.TDMが推奨される薬物の特性として,治療域が狭い(さじ加減が難しい),薬効発現の個人差が大きい,病態生理学的要因により薬物体内動態が変動しやすい,副作用が薬物濃度に依存する,副作用が重篤である,薬効の指標となる簡便なマーカーがほかにない,投与量と血中濃度が比例しない(非線形性)などが挙げられる.TDMの学問的基盤は,pharmacokinetics(薬物動態学)とpharmacodynamics(薬力学)である.

 血中薬物濃度を測定し,その結果に基づき投与量を精密に管理した場合,「特定薬剤治療管理料1」として保険上の診療報酬が認められている(⇒「Ⅱ 特定薬剤治療管理料一覧」参照).なお,算定に際しては血中薬物濃度および治療計画の要点を診療録に添付または記載する必要がある.


B.臨床におけるTDM業務の実際


 薬物治療の個別化を目指したアプローチを図1に示す.薬剤の選択(医師,薬剤師)と投与(医師)→適切な時点での採血(医師,看護師,検査技師)→信頼できる測定法(薬剤師,検査技師,外注検査会社)→薬物体内動態および臨床経過に基づく評価(医師,薬剤師)→薬物動態理論に基づく投与設計(主に薬剤師)→最適治療へのフィードバック,の一連の作業が

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?