感染性心内膜炎の疫学
●左心系の弁が侵されることが多い(自然弁では特に僧帽弁,人工弁では特に大動脈弁が多い)が,静脈覚醒剤乱用患者では,右心系の感染性心内膜炎が多い.
●起因菌はStreptococcus viridans(緑色連鎖球菌)が最も多く,黄色ブドウ球菌,そして腸球菌が続く.
●人工弁では感染性心内膜炎は0.1-2.3%/人年で発症する〔Heart. 2001 May; 85(5): 590-3〕.
感染性心内膜炎のリスク要因
●基礎疾患として弁膜症や先天性心疾患が3/4の症例で認められる.
●弁疾患手術歴と心内膜炎の既往がある場合はリスクが最も高いが,ペースメーカー留置が感染性心内膜炎の誘因となることは少ない.
●心雑音を聴取するだけではリスクはさほど高くはない.
●S. viridansの感染性心内膜炎の1%のみが歯科治療により起こっており,歯科治療よりも口腔内不衛生やアトピー性皮膚炎などの慢性的なバリア損傷がリスクとして重大である.
●歯科治療と亜急性感染性心内膜炎の関係
▶抜歯などの歯科処置は1年の日常生活(歯磨きや食事摂取)で起こりうる菌血症の1/5,600,000でしかない.口腔内の菌が原因であっても,潜伏期に一致する7-14日前に歯科処置が行われているのは7%程度しかない.
▶感染性心内膜炎1例を起こすための歯科治療の必要件数
MEMO 感染性心内膜炎の予防適応
●上述の通り,歯科治療による感染性心内膜炎は実際には多くはないとの結論より,最近では抗菌薬予防投与の適応は限られている.
●口腔粘膜損傷を伴う歯科処置で以下のリスクがあれば感染性心内膜炎の予防を行うが,消化管・泌尿生殖器の処置では不要とされる.
1.人工弁
2.感染性心内膜炎の既往
3.未治療(緩和的シャントなど含む)のチアノーゼ性先天性心疾患
4.人工物を留置して治療した先天性心疾患は人工物の近くに欠損が残存している