診療支援
治療

その他の前癌皮膚病変
Other precancerous and in situ lesions
安田 正人
(群馬大学准教授)

病態

 有棘細胞癌のほとんどは何らかの基盤となる状態,疾患(前癌病変)上に発症する.最も頻度が高いのは日光角化症であるが,そのほか,瘢痕や慢性炎症をきたす疾患が発生母地となることが多い.また,色素性乾皮症などの遺伝性皮膚疾患における発癌にも注意を要する.

 瘢痕や難治性潰瘍から生じる悪性腫瘍は,1828年Nicolas Marjolinの報告を嚆矢としてMarjolin's ulcerとよばれ,古くより認識された概念である.多くは熱傷瘢痕が母地となり,熱傷受傷後,数十年を経て有棘細胞癌を生じる(図22-22).基底細胞癌,悪性黒色腫,肉腫などの発症もみられる.そのほか,慢性放射線皮膚炎,慢性膿皮症,下腿潰瘍,硬化性萎縮性苔癬,円板状エリテマトーデス,扁平苔癬,慢性骨髄炎,尋常性狼瘡,褥瘡,粉瘤などからの発癌も報告されている.

【頻度】熱傷瘢痕ではMarjolin's ulcerを発症するのは1~2%とされている.受傷から発癌までの期間は,多くは30年以上であるが,1年以内に生じることもある.放射線治療後の瘢痕でも基底細胞癌,有棘細胞癌の発症率の増加がみられ,発癌までの期間は同様に30年程度である.特に慢性放射線皮膚炎を生じている場合の発癌は20%程度と増加する.慢性膿皮症は10年以上の経過で臀部での発癌の報告が多く,発症率は約5%であるが,進行した状態で診断されることが多い.硬化性萎縮性苔癬からの発癌は5%前後だが,陰茎癌,外陰癌の50%程度で組織学的に硬化性萎縮性苔癬の像が観察される.円板状エリテマトーデスや扁平苔癬は口唇,口腔内病変からの有棘細胞癌の発症が多い.これら瘢痕や難治性潰瘍から生じる悪性腫瘍は,男性に多くみられるのも特徴である.

【病因・発症機序】瘢痕や慢性炎症から発癌に至る発症機序の詳細はいまだ不明である.持続的な組織損傷に伴い,活性酸素などの毒性因

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