病態
梅毒は皮膚・粘膜をはじめ広範な臓器に感染し炎症を起こす慢性感染症である.その病原体のTreponema pallidum(TP)(図29-1)図はスピロヘータ目トレポネーマ属の細菌であり,らせん形の菌体を回転させて運動する.TP感染侵入部位の皮膚・粘膜に,梅毒Ⅰ期疹として初期硬結,硬性下疳(図29-2)図が出現するが,TPは所属リンパ節で増殖するためリンパ節は無痛性に腫脹する(無痛性横痃).これは硬性下疳とともに感染5~6週後に消失するが,増殖したTPは血行性に全身に散布され,感染後12週前後で,梅毒Ⅱ期疹を発現する.Ⅱ期疹はバラ疹(図29-3)図以外にも,粘膜疹(梅毒アンギーナ)(図29-4)図,扁平コンジローマ,膿疱性梅毒,梅毒性脱毛,梅毒性白斑など多様な皮膚症状を示す.Ⅰ期,Ⅱ期を通じて下疳(粘膜の潰瘍)や横痃(リンパ節腫脹)は無痛性であることが特徴である.Ⅲ期は年余を経て心血管症状,ゴム腫,進行麻痺,脊髄癆などの臓器病変が進行した活動性梅毒だが,感染力はない.
【疫学】本邦への伝播は1500年代初期とされ,江戸時代から明治時代に大流行し,第2次世界大戦後に再流行したのち,ペニシリンの流入後,激減した.ところが,本邦では2013年以降,5年間でおよそ7倍に増加し,2018年には7,001例が報告された再興感染症である.特に中年男性と若年女性の増加が著しく,その対策は公衆衛生上の喫緊の問題である.
診断
臨床現場で最も診る機会が多いのが,梅毒Ⅱ期疹である.梅毒性バラ疹の紅斑は自覚症状を欠き,風疹や麻疹に比べてやや大きく粟粒大から米粒大で不整形を示し,駆梅療法により色素沈着を残さず消褪する.バラ疹はTPの菌血症の状態を示し,2~3週で消褪し,3~6か月ごとに再発を繰り返す.手掌,足底に出現する紅斑は体幹のそれに比べて大きく,辺縁に環状の鱗屑を伴い,自覚症状を欠き,診断的
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