診療支援
患者説明

「インフォームド・コンセント」「説明と同意」の歴史的俯瞰
工藤翔二
(結核予防会・理事長/日本医科大学・名誉教授)

1.許される人体実験の倫理規範―「ニュルンベルク綱領」と「ヘルシンキ宣言」

 第二次世界大戦の終結の後,ドイツによって行われた戦争犯罪を裁く国際軍事裁判が開かれた.ニュルンベルク裁判(1945年11月~1946年10月)である.それに引き続いて,当時ニュルンベルクを占領統治していたアメリカ合衆国による「ニュルンベルク継続裁判」(~1949年4月)が行われた.その最初の裁判が,いわゆる「医者裁判」(1946年12月~1947年8月)とよばれるものである.そこではナチス・ドイツの虐殺や人体実験などに関与した者たちが裁かれた.この裁判では,第二次世界大戦中のユダヤ人に対する残虐な人体実験が,反倫理的,反社会的な犯罪として裁かれた.しかし,それは人体実験そのものを禁じたものではない.その判決文の中に「許可できる医学実験」と題する一節があり,これがニュルンベルク綱領(Nuremberg Code)(1947年)1)といわれるものである.

 「ニュルンベルク綱領」では,研究目的の臨床試験および臨床研究を行うにあたって,被験者の自発的な同意が絶対に必要であること,人間で試験しなくてもよい試験や成果が期待できそうにない試験は行うべきではないこと,試験に際して不必要な苦痛を与えるべきではないこと,死亡や後遺症をもたらすような試験は行うべきではないことなど,守るべき10項目の基本原則が記された.この「ニュルンベルク綱領」が,医学的研究のための被験者の意思と自由を保護するガイドラインの始まりといってよい.

 「ニュルンベルク綱領」の流れを受けて,1964年6月,ヘルシンキにおいて開かれた第18回世界医師会総会で,医学研究者が自らを規制するための人体実験に対する倫理規範として,いわゆる「ヘルシンキ宣言」2)が採択された.正式な名称は,「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」であり,その後に,時代とともに

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