診療支援
患者説明

インフォームド・コンセントと法律
丸山英二
(神戸大学名誉教授)

1.インフォームド・コンセントの要件―概要と理念

1)概要1)

 インフォームド・コンセント(informed consent;IC)の字義的な意味は,インフォメーション(=情報・説明)に基づいた同意(「承諾」という言葉もほぼ同義で用いられます)です.ICの要件として医療従事者に求められるのは,医療行為の実施について患者の同意を得ること,および,その前提として当該医療行為について適切な説明をすること,です.このICの要件を満たさずに,医療行為を行うと,たとえ手技的な過失(=注意義務違反)なしに行われた場合,あるいは身体的損害が生じなかった場合でも,医療従事者および医療機関は不法行為ないし債務不履行を犯したものとして,損害賠償責任を問われます*1

 医療の場合,この要件は,あらゆる医療行為についてその充足が求められるわけではありません.その充足が求められるのは,ある程度以上のリスクをはらむ医療行為か,または,当初の受診の目的ないし当初の診療契約の範囲を超える医療行為です.また,ICで問題になる説明は同意の前提としての説明です.薬の服用の仕方や療養上の注意などについての説明あるいは転医・転院を勧めるための説明は,ICとは直接の関係がありません.

2)ICの理念

 ICの要件を基礎づけるものとしては,第一に,本人に同意能力が認められる限り,そして,他者や社会に危害を及ぼさない限り,自分自身に関する決定は自らが下し,他者によってコントロールされてはならない,という自己決定権・自律権の尊重の理念が挙げられます.これは,個人の価値観や目的を尊重し,個人に意思をもつ人格としての地位を保障しようとする理念です.ICの要件は,患者の意思,それも十分な情報に基づいて形成された意思に適合する場合でない限り,医療が実施されることはないということを保障しようとするものですので,自己決定権・自律権の尊重はIC

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