診療支援
患者説明

インフォームド・コンセントと医療経済
田倉智之
(東京大学大学院医学系研究科医療経済政策学・特任教授)

 診療において不可欠なものである「説明と同意」,すなわちインフォームド・コンセント(informed consent;IC)は,すべての情報を関係者に開示しつつ診療のゴールを共有し,患者と医療者が協働で診療計画などを作成することを指します.

 昨今,わが国においてもICは,その概念や定義がおおむね確立して,日常診療においても広く定着しています.その誕生や発展の歴史を振り返ると,社会の変遷や医界の成熟を背景に倫理や法理などの論点が複雑に絡みつつ,今日に至っていることが理解できます.この間,医療経済にまつわる課題が占める割合は小さく,顕在化することもなかったと考えられます.

 しかし,患者の理解や納得の醸成のために十分な手間をかける必要があること,また患者の価値観の多様化や社会とのつながりの変遷が進んでいること,など最近の動向を考慮するならば,ICの本質を社会経済性などから改めて問うことも望まれます.特に,その対象となる診療が医薬品などを中心に高額化する傾向にあるため,患者中心の医療を支える医療システムのあり方についても配慮が必要になります.

 以上を踏まえ,本項ではICについて医療経済学的な整理を行うための考え方を解説したうえで,その内容に沿って具体的な研究事例を紹介しつつ,ICが有する潜在的な価値について考察を加え,当該領域のさらなる発展の一助となれば幸いです.

1.ICの医療経済学的な整理の考え方

 ICは,患者・家族の利益の最大化などを目的にその意思決定を支えることが主旨であるため,医療経済学的な切り口による議論は過去において多くはありませんでした.一方で,「医師のプロフェッショナル・オートノミーと自己規律に関するWMAマドリッド宣言」(1987年,世界医師会)1)でも謳われているように,診療の検討や決定においては,医療資源の適正利用などを意識することも重要と考えられます.

 以上

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