診療支援
患者説明

インフォームド・コンセントと倫理学
蝶名林亮
(創価大学文学部・准教授)

1.医療行為がもつ2つの特殊性

 聴診器で心音を聞く.採血をして血液の成分を調べる.手術をして患部を取り除く.これらは医療機関で日常的に行われている行為です.

 さて,これら典型的な医療行為についてよく考えてみると,次の2つの特殊な性格をもつことがわかります.

①医療において行われる行為は通常は許されない行為

 医療行為の内実をよく考えてみると,それは「見知らぬ人に肌を見せる」「個人情報をさらけだす」「針を体に刺される」「刃物で体を切られる」など,普通の状況では到底許されない行為です.

②医療者と患者の間には情報に関して大きな差異がある

 患者は基本的には医療の素人です.一方で,病院で働く人々は一般人は通常もたない医療に関する専門的な知識をもっています.医療行為はこのような一般人はもたない特殊な知識に基づいて行われています*1

 医療行為にはこのような2つの特徴がありますが,このことは,医療を提供する医療者と,それを受容する患者の間に,一種の緊張関係があることを伺わせます.それは,医療者側と患者側の間に情報の差異があることで,患者側は行われている治療に対して適切な理解を得られない可能性があり,そのような不確かな理解のうえで行われた通常は許容されない医療行為は,さまざまな意味で,患者を害する場合があるからです.

 医療者と患者の間にあるこのような緊張関係を緩和し,医療行為に正当性を与えるとされるのが,本書のテーマであるインフォームド・コンセント(informed consent;IC)です.医療者が患者に適切な説明を行い,それに基づいて患者が治療方針に同意を与えた場合,提案された治療方針には正当性が与えられる.これが,ICの基本的な考え方です.

2.ICと倫理学

 ICに関していくつかの理論的な問いがあります.

①法的な観点からみて,ICが適切に実施されている場合と適切に実施されていない場合とは

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