1.現在の病状・病態
酸素は生体内の正常な機能・生命維持に必要であり,エネルギー代謝に不可欠な物質です.しかし,呼吸器系や循環器系の病気では,慢性的に血液内の酸素が不足する場合があります.酸素が不足すると,息切れのため運動不足や栄養不良となり,呼吸筋や手足の筋肉がやせるため,呼吸がうまくできなくなります.また,呼吸機能が低下し,酸素不足が進行すると心臓にも負担がかかり,いわゆる心不全の状態となってしまうこともあります.さらには,酸素不足により不眠症や抑うつになってしまうという問題があります.
そこで,室内気より高い濃度の酸素を投与する治療(酸素療法)が必要となります.酸素療法を自宅で実施することを在宅酸素療法(home oxygen therapy;HOT)とよびます.
2.治療目的
HOTの目的は,体にとって必要な量の酸素を補充することです.われわれが普段吸っている空気中の酸素濃度は約21%といわれています.肺に病気がある人では,これよりも濃い濃度の酸素を吸わないと体に必要な酸素を取り込むことができません.そのため,HOTが必要な患者さんでは,医師が決めた量の酸素を,主に鼻のチューブ(図1図)から吸入して必要分の酸素を補充します.HOTを行うことで,住み慣れた環境で療養を行いつつ,症状(呼吸困難)の軽減が可能となり,趣味や生活習慣,社会活動を継続しながら,患者の生活の質(quality of life;QOL)を高めることができ,さらに寿命が延びることが期待されます3).
3.治療法の概略と効果
1)概略
わが国では,1985年に高度慢性呼吸不全例に対してHOTの健康保険が適用となりました.肺高血圧症(1994年)や慢性心不全(2004年4月),群発頭痛(2018年4月)に対する適用拡大などにより,現在では在宅医療のなかで約17万人と最も普及している治療法となっています(図2図