診療支援
患者説明

低血糖昏睡
及川洋一
(埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科・准教授)
島田 朗
(埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科・教授)

1.現在の病状・病態

 血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことを指し,健常人では常に70~80mg/dLを下回らないように調整されています.脳の細胞は基本的に血液中のブドウ糖のみをエネルギー源として利用していますので,なんらかの原因で血糖値が異常に低くなり脳細胞にブドウ糖を十分に供給できなくなると,脳が正常に機能しなくなり意識障害をきたします.その結果,昏睡状態に陥った状態を「低血糖昏睡」といいます.

 血糖値は,血糖を下げる作用をもつインスリンというホルモンと,血糖を上げる作用をもつインスリン拮抗ホルモン(グルカゴン,カテコールアミン,副腎皮質ステロイドホルモン,成長ホルモン)のバランスで調整・維持されています.一般的に,血糖値が80mg/dL付近まで低下するとインスリンの分泌が抑えられ,70mg/dL付近まで低下するとグルカゴンやカテコールアミンの分泌が生じ,60mg/dL付近まで低下すると成長ホルモンやコルチゾールの分泌が起こります(図11).これらのインスリン拮抗ホルモンの分泌は,低くなった血糖値を元に戻そうとする一種の生体の代償機構(防御機構)となります.しかし,この代償機構が不十分ですと,血糖値が50mg/dL付近あるいはそれ以下にまで低下してしまい,さまざまな低血糖症状が出現します.

 低血糖の症状は,交感神経症状と中枢神経症状の2つに分類されます(表1).

1)交感神経症状

 一般的に,血糖値が50mg/dL未満になると発汗(冷や汗),振戦,動悸などの交感神経症状が出現します.これは,インスリン拮抗ホルモンの1つであるカテコールアミンの過大な分泌によるものであり,患者さんが自覚することができる低血糖の警告症状です.通常,このような症状が出た時点で患者さんが自らブドウ糖や甘いものを摂取するなど,血糖を上げるための食行動を取っていただきます.その結果,さらなる血糖の

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?