診療支援
患者説明

多系統萎縮症の呼吸管理
佐々木秀直
(函館中央病院脳神経内科)
渡辺宏久
(藤田医科大学医学部脳神経内科学・主任教授)
下畑享良
(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授)

 本項は多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)の診療に携っている医療関係者を対象に,呼吸障害への対応について患者・家族に説明する際に必要最低限の事項についてまとめたものです.

1.現在の症状・病態

 MSAは成年期以降に発病する難治性神経疾患の1つです.患者のほとんどは孤発性ですが,まれに血縁者にも発病することから遺伝素因の関与が推定される場合があります.MSAは起立・歩行時のふらつきなどの小脳症状,運動緩慢や筋緊張亢進などのパーキンソン(Parkinson)病様の症状,起立性低血圧や排尿障害に代表される自律神経症状で発病します.経過は慢性進行性であり,パーキンソン病と異なり抗パーキンソン病薬の効果は限定的で,現時点では病気の進行を止めるなどの根治的治療法は知られていません1).MSAは指定難病の1つです.この病気であると診断された患者は,重症度基準を満たした段階で認定申請して,医療費の公費助成を受けることができます.MSAの療養中において考慮すべき課題の1つに突然死があります.突然死の原因としては,痰,食物,吐物による窒息,舌根沈下や喉頭軟化症(floppy epiglottis)などによる上気道の閉塞のほか,延髄呼吸中枢の障害による中枢性呼吸障害,心臓自律神経の障害などが報告されています1,2).喉頭軟化症は,喉頭蓋を支える靱帯の弛みや舌根部の緊張の低下により生じ,仰臥位において吸気時に喉頭蓋が気管入り口に引き込まれやすくなります.睡眠時呼吸障害の症状としてはいびきや無呼吸があります.十分に睡眠を取れないことにより早朝の頭痛,昼間の眠気,疲労感を訴えることがあります.突然死を完全に予測することは困難ですが,これらの呼吸障害の症状がみられたら,適切に対応することが大切です.

 呼吸障害の多くは進行期に現れますが,まれに早期に現れる場合があります.

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