診療支援
患者説明

認知行動療法
菊地俊暁
(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室・専任講師)

1.現在の病状・病態

 うつ病や不安症(パニック症や社交不安症),強迫症,心的外傷後ストレス障害,摂食症などの精神疾患を有しているとき,あるいは強いストレスが加わっている状況のなかでは,物事を冷静に把握し,また適切に行動するという,通常行えている情報の処理がうまく機能しなくなってしまいます.例えば抑うつ症状が強いときには,「認知の歪み」とよばれる物事の捉え方の偏りがみられるようになり,不適切ないしは非適応的な行動や,抑うつ・不安などの不快な気分が引き起こされていきます.また,不安症状が強いときには,ある状況や物事を回避する,あるいは不安を和らげるための習慣的な行動(例:手洗い,確認)を過度に繰り返す(強迫行為),といった行動面での問題で病状が悪化しやすく,結果として日常生活に強く影響を及ぼしてしまいます.このような状態は決してまれではなく,日本では約1/4(22.7%)1)の方が生涯のいずれかのときにうつ病や不安症などの精神疾患になると報告されています.

2.治療目的

 認知行動療法は,認知や行動という情報処理のプロセスに焦点を当てながら,患者と治療者との間で問題を解決していきます.それにより,気分の改善や行動の変化を促し,患者自身の問題への対処能力を伸ばしていくことで,その結果として精神疾患の改善やストレスへの対処能力の向上が期待される精神療法の1つです.

3.治療法の概略と効果

 認知行動療法は目標志向型の短期精神療法で,原則として週1回,1回30~50分(疾患によっては最大90分),計10~16回を目安に治療が行われます.また,再発予防の目的で規定の回数を終えてから数回追加して行う場合もあります.

 治療全体としては,①治療の導入,②問題への取り組み,③終結と再発予防という3つに大別することができます.実際には,まず問題点や長所などの情報を収集し,症例の見立てを行い,治療方針を立

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