Ⅰ.鼠径ヘルニア
●病態
・小児鼠径ヘルニアの多くは,腹膜の一部が内鼠径輪から鼠径管内へと突出し形成された腹膜鞘状突起内に,腹腔内臓器の一部が入り込んだ外鼠径ヘルニアである.
・小児外科の手術対象の疾患では最も多く,小児の1~5%にみられ,右側が60%,左側が30%,両側が10%と右側が多い.立位,啼泣など腹圧上昇の際に鼠径部が膨隆しやすく,非脱出時は触診上でシルクサイン(肥厚したヘルニア嚢と精索が触れる)を確認した場合は,鼠径ヘルニアの可能性が高い.また補助診断として超音波検査も使用できる.
・腹腔内臓器が脱出し,徒手整復できない病態を嵌頓(かんとん)とよび,腹痛,嘔吐などの腸閉塞症状を呈する.徒手整復できなければ腸管壊死などの合併も考慮し,緊急手術を行う必要がある.
●治療方針
腹膜鞘状突起の閉鎖は1歳以降では見込めないため,麻酔のリスクや手術の難易度も考慮して,当科では1歳以降,あるいは1歳未