診療支援
検査

2023-2024年版/編集者の序

 本書の初版が出版されたのは1997年で,それから四半世紀の時が流れた.今までの序文を読み返しても,この間に社会にも科学にも大きな変化があったが,ここ数年の社会を根底からひっくり返すような変化は,強烈であった.第1は,新型コロナウイルスの世界的パンデミックであった.わが国では2020年2月から流行が始まり,「生命か,経済か」という二律背反を喧伝され,結局,両方とも失ったような気がする.感染を抑え込みつつ,経済成長を果たした国もあるなかで,わが国は,残念ながらコロナ敗戦国と言っていいだろう.すなわち,わが国の科学と医学の劣化は,新型コロナウイルスに対する,診断試薬,ワクチン,そして治療薬,このいずれの開発においても後れをとったことで明らかになった.さらに科学の劣化のみならず,ガバナンスの劣化も明らかになった.政治・経済に権限をもつものが臨床試験という科学を蹂躙しようとし,ICT(情報通信技術)はもっていても,それを社会制度に組み入れていくことが全くできなかった.また,わが国がよって立つべき科学立国という理念から離れていったことがコロナ敗戦の大きな原因と思う.

 四半世紀前,20世紀の終わり頃の世界は,バブル崩壊の後処理で喘いでいた.「失われた10年」が今や「失われた30年」とさえ言われる.コロナ敗戦を踏まえ,いまいちど世界をリードする科学立国を復興させるべきと考える.創薬などでは後れをとったものの,幸いわが国の医療の水準は極めて高いレベルにある.少子高齢社会を見据え,医療から国を立て直すくらいの気概で,ポストコロナの時代を創生すべきであろう.

 第2の衝撃は,2022年2月に始まったウクライナの戦争である.核爆弾の使用可能性など重大な危機をはらみながら,今も戦闘が続いている.国内においてもJアラートといういわば空襲警報が鳴り響く時代になった.われわれの価値観も再構築を余儀なくされ

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?