診療支援
検査

データ判読の基礎
河合 忠
(自治医科大学名誉教授)
北村 聖
(地域医療振興協会顧問)

Ⅰ.生体計測により得られる情報の特性

  ホメオスタシスとゆらぎ


 臨床検査は,いろいろな計測技術を利用して,生体の形態および機能の変化をとらえることである.便宜的に,生体そのものの変化をME機器を使って直接計測する場合を生体検査(生理学的検査と一部の画像検査などを含む)と呼び,生体から採取した体液や組織の一部,すなわち,検体(または検査材料)について計測する場合を検体検査と呼んでいる.


1.生体変化はファジーなもの

 臨床検査の対象となる生体の変化はファジー(fuzzy)なものであり,無生物の剛体を計測するのとは根本的に異なる.

 生体の特徴は,ホメオスタシスとゆらぎの二面を兼ね備えていることにある.すなわち,生体は常にゆらいでいるが,そのゆらぎは一定範囲内にあり恒常性を維持している.すなわち,図1に示すように,生きたヒヨコの体長を計測するのにたとえることができる.ヒヨコは常に動いているので,1mm単位まで測ることは困難で,目盛りの粗い物差しで迅速に測らなければならない.また,豊富な羽毛で覆われているので,どこまでが「真の体」なのか定かではないし,そよぐ風によっても羽毛が動いている.しかし,死体について羽毛を剝ぎとってみると「実体」は存在し,体の大きさがより正確に計測できる.


2.適切な計測技術が必要である

 生体変化はきわめてファジーな性質をもっているので,目的によって計測技術を選ばなければ,必要な生体情報は得られない.図1で,羽の厚さを計測するのに,目盛りの粗い物差し(A)ではなく,1mm単位まで読み取れる物差しを使わなければならない.しかし細かい目盛りであれば正確に計測できるというものでもない.図1のように,ノギス(B)を使ったとしても,そよ風で動く羽毛の表面から羽の厚さを計測する意味はない.目的とする生体情報を取り出すためには,計測技術の選択とその精度が重要である.

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