診療支援
検査

基準範囲・臨床判断値・感度・特異度の概念とその正しい利用法
三宅 一徳
(順天堂大学教授・医療科学部臨床検査学科)

 結果が数値データとして得られる臨床検査では,測定値を解釈するために何らかの目安が必要である.臨床検査では,この解釈のための指標として,①健康人集団の測定値である基準範囲と,②特定の病態に対する判別指標である臨床判断値,という2種の数値が提供される.

 両者はしばしば混同して用いられているが,概念と算出法が全く異なり,明確に区別して利用すべきである.


Ⅰ.基準範囲の概念と利用法

1.基準範囲とは何か

 基準範囲(reference interval)とは,一定の明確な医学的基準によって選抜された個体を多数集めて,その個体群が属する母集団の測定値分布を統計学的に推計し,その分布の中央95%を含む数値範囲を算出したものである1,2)

 一般には,基準範囲の算出には“健康”と判断される個体が選抜される.したがって,基準範囲は,かつて“正常値”と呼ばれていた概念に相当する.しかし,後述するように健康人集団から得る数値範囲は,いかに厳密に求めても,被検者個人の健康状態,病的状態の判別指標としては本質的な限界を有する.このため,あたかも健康状態の指標であるかのような誤解を惹起する“正常値”という言葉に替えて,“基準範囲”という用語を用いている.


2.基準範囲の算出法

 米国のCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute;https://clsi.org/)の指針3)による手法が標準的な設定手順とされている.この指針では,およそ次のようなステップで基準範囲を求めることが規定されている.

①測定値に影響を与える生理的変動と分析上の要因を事前にリストアップする(新規項目であれば調査を行う).

②条件に適う個体(これを基準個体と呼ぶ)の選別,除外基準を決定し,選別・層別化に用いる問診票を作成する.

③問診票の記入結果と,他の適切な健康状態評価を利用して基準個体

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