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新型コロナウイルス感染症の動向
北村 義浩
(日本医科大学医学教育センター個別化教育推進部門・部門長(特任教授))

Ⅰ.起因微生物

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)で,コロナウイルス科ベータコロナウイルス属SARS関連コロナウイルス種のなかの1つの株である.ウイルス受容体はアンジオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE2)である.ACE2は気道上皮・肺胞上皮のみならず,血管内皮など全身に分布する.ウイルスの最外層のエンベロープ膜上で外方に突出し存在するスパイク(S)蛋白質の受容体結合領域(RBD)がACE2に結合することから感染サイクルが開始される.中和抗体は,主にRBDに結合して感染を阻止する抗体である.2021年12月以降にパンデミックの主流となったのは,変異株B.1.1.529(WHOは「オミクロン変異株」と命名.以下,オミクロン株)である.オミクロン株の特徴は,それまでの変異株感染やワクチン接種で得られた中和抗体から逃避できるという点である.

 ウイルスのS遺伝子進化には2つの駆動力がある.ヒト集団が獲得した中和抗体免疫から逃避すべくS遺伝子に多数の変異を起こすべしという変化推進駆動力と,変異しすぎてしまうと増殖できないウイルスになってしまい自滅するのでS遺伝子を維持すべしという現状維持駆動力である.この相反する駆動力のバランスの下で生まれて,流行する機会に恵まれた変異株がオミクロン株である.それゆえ,オミクロン株登場の前後で流行の質が変化した(表12).


Ⅱ.オミクロン株流行

 世界の感染者は,2022年9月末までに約6億1,600万人である.このうち,オミクロン株登場以降の約300日の感染者総数のほうがオミクロン株流行前の約670日間の感染者総数よりも9,000万人も多い.短期間により多数の感染者をもたらす高い感染力が顕著である.死亡者(累積)は,2022年9月末までにおよそ654万人である.このうちオミクロン株登場以前の流行期の死亡者総数のほうがオミクロン株登場

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