「今日の救急治療指針」の初版が世に出てから15年の歳月が過ぎ去りました.この間に救急医療を取り巻く環境は大きく変わりました.画像診断,低侵襲手技,臓器移植,新薬,再生医療など,医学・医療は長足の進歩を遂げました.医療はますます高度化し,国民の医療に対する期待が膨れ上がる一方で,深刻な医療事故が次々と起こりました.医療不信が高まり,安易に訴訟へと進む風潮が生まれました.卒後臨床研修の義務化と病院勤務医師の過酷な勤務状態の顕在化,女性医師比率の増加への未対応,総医療費抑制に伴う病院の疲弊が「医療崩壊」を招きました.これらの歪みを最も鋭敏に反映するのが救急医療です.重症救急患者の「受け入れ不能」が再燃しました.
他方,人口の少子高齢化,交通安全対策の推進,産業構造の変化に伴い,救急医療の需要は質・量とも大きく変わりました.従来の外因性救急に代わり,脳卒中や急性心筋梗塞などの内因性救急が急増し続