A.ER診療のポイント
●心不全とは,心臓のポンプ機能が低下し,前負荷(静脈還流),後負荷(血管抵抗)の変化に対応できず循環動態が破綻した状態である.肺循環または体循環にうっ血をきたした心不全をうっ血性心不全という.
●心不全に対し生体は,心拡張,心肥大,交感神経緊張,内分泌機能などで代償をはかる.しかし,その代償機転が破綻すると症状が顕在化する.心原性ショックとは,最も重篤な心不全であり,心拍出量の低下から末梢循環不全に陥った病態である.
●肺うっ血・肺水腫の程度に応じて,軽度の息切れ(運動耐容能の低下),夜間の発作性呼吸困難,起坐呼吸,ピンク色の泡沫状喀痰,といった症状が出現する.呼吸音の異常は,吸気終末に両下肺野で聴取されるわずかな乾性ラ音から,全肺野で聴取される喘鳴まで様々な程度で認められる.体うっ血による症状としては,顔面や下腿の浮腫が代表的である.
●原因となる病態としては高血圧症と冠動脈疾患が代表的である.その他,心臓弁膜症,心筋炎,心筋症(特発性,二次性),心膜炎,重症貧血,甲状腺機能亢進症,脚気,動静脈シャントなどが心不全の原因となる.
●心不全の予後は不良である.症状出現から2年間の死亡率は35%で,その後6年間で,男性の80%,女性の65%が死亡し,特に心原性ショックでは1週間以内に85%が死亡すると報告されている.
●診療に際しては迅速さが求められる.気道・換気を確保しながら,病態に応じた循環管理を行い,原因治療も並行して行うことが重要である.
B.最初の処置
1診療体位の選択
安静が基本である.初めから心不全を疑う場合は,血圧が維持されている限り,起坐位またはファウラー位として前負荷(静脈還流)の軽減をはかる.ショック状態であれば,臥位での診療が原則である.
2気道確保
肺うっ血による症状として呼吸不全を呈することが多い.意識レベルが低下し気道が確保されていなければ
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