A.疾患・病態の概要
●肺水腫は肺胞における間質と肺胞腔へ血液成分が移動した状態である.肺においては血管床と間質との間で液体成分の移動が絶え間なく行われているが,健常状態では間質に移動した液体成分とほぼ同量の液体成分がドレナージされている.しかし,肺毛細血管の静水圧が上昇したり,毛細血管膜に傷害があると,間質や肺胞腔に液体成分が貯留する.これによって酸素交換に支障をきたし,呼吸困難を中心とする臨床症状を呈した状態が肺水腫である.
●したがって肺水腫の原因として,肺毛細血管の静水圧が上昇することによる心原性肺水腫と毛細血管膜の透過性の亢進による非心原性肺水腫とに大別される.そして後者の病態をALI(acute lung injury:急性肺傷害),ARDS(acute respiratory distress syndrome:急性呼吸窮迫症候群)と呼んでいる.1994年に発表されたAmerican-European Consensus Conference(AECC)による診断基準が広く用いられているが,①急性発症,②胸部X線上両側性の浸潤影,③低酸素症(ALI:FIO2/PaO2≦300,ARDS:FIO2/PaO2≦200),④心原性肺水腫の否定,などによって診断される.
●ALI/ARDSは,肺に対する直接的あるいは間接的な侵襲(表1図)によって起こるが,末梢血液中の好中球が速やかに肺内に集積し,その好中球から放出される活性酸素や蛋白分解酵素などによって肺血管内皮細胞や肺胞上皮細胞が傷害されて,肺毛細血管の透過性亢進が惹起されて発症する(図1図)が,ALIとARDSは同一の病態であり,重症度が異なっているに過ぎない.
●ALI/ARDSの死亡率は,ここ20年で50~60%程度から25~30%程度に減少しているが,その死亡の大部分は多臓器不全であり,特に敗血症に合併したARDS
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