A.疾患・病態の概要
●心膜炎は心臓を包む心膜の炎症であり,急性心膜炎と慢性(収縮性)心膜炎がある.救急領域で診療の対象となるのは急性心膜炎であり,時に急性心筋炎,急性心内膜炎を合併する.
●急性心膜炎が重篤化すると,心嚢内に貯留した心嚢液により心タンポナーデを起こすことがあるので,注意が必要である.
●急性心膜炎は種々の原因によって起こるが,多くは全身性疾患の一部あるいは合併症として生じる.
①特発性(原因不明)
②感染性(ウイルス,結核菌・細菌,真菌,寄生虫など)
③膠原病性(リウマチ,SLEなど)
④尿毒素性(腎不全)
⑤悪性腫瘍性
⑥心筋梗塞後症候群(Dressler症候群)・心膜切開後症候群
⑦急性心筋梗塞・急性大動脈解離(発症直後)
⑧その他(薬物アレルギー,放射線治療など)
注)心筋梗塞後10日~2か月後に発症する心膜炎は,心筋梗塞後症候群(Dressler症候群)に合併して起こり,発熱,心嚢液,胸膜炎,胸水などを認めることがあるので,注意が必要である.
B.最初の治療
1症状
心膜炎の症状としては,全身症状として,発熱,発汗,倦怠感,食欲不振,体重減少などを認める.典型的な症状としては胸痛を認め,胸骨裏面から左前胸部,肩に放散することが多く,数時間~数日間続くこともある.深呼吸,咳嗽,体動,嚥下で増強する.また,体位では仰臥位,特に左側臥位で増強し,坐位,特に前屈で軽減する.胸痛のため,浅く早い呼吸をしていることが多い.さらに心嚢膜液貯留による周辺臓器の圧迫症状として,気管支圧迫による呼吸困難や咳嗽,反回神経圧迫による嗄声,食道圧迫による嚥下障害や嚥下痛,横隔膜神経圧迫による吃逆,がみられることがある.
2徴候
心膜炎の徴候としては,心膜摩擦音と心音減弱,心尖拍動減弱が典型的である.心膜摩擦音は心膜の摩擦により生じるが一過性であり,心嚢液貯留に伴い減弱または消失する.胸骨左縁下部に聴取