A.疾患・病態の概要
●急性動脈閉塞には脳梗塞,心筋梗塞,腸間膜動脈塞栓症などを含むべきだが,ここでは突然発生した四肢(ことに下肢)主幹動脈の閉塞によって,血流が及ぶ末梢組織を阻血に陥らせる病態を指す.四肢では側副血行路が発達していないため,急激な動脈閉塞をきたすと,末梢組織の阻血は(慢性閉塞とは比較にならないほど)劇症となる.
●血流再開が得られないと,神経⇒筋肉⇒皮膚の順で急速な壊死に陥る.閉塞が高位で,広範な場合,大量の筋組織が高度の阻血に陥り,数日のうちに肢の壊死が完成する.また,血流再開に伴う虚血再灌流障害が加わると,筋組織の破壊に伴い諸種の酵素・電解質・ミオグロビン・サイトカイン・活性化白血球などが血中に多量に放出され,腎不全をきたす.より高度な場合にはARDSやショックなど全身諸臓器の障害が現れ,多臓器障害を呈する.これをmyonephropathic metabolic syndrome(MNMS,代謝性筋腎症候群)と呼ぶ.
●急性閉塞をきたす原因は,おもに次の四つである.
①血栓症(thrombosis):血栓症は動脈壁の病的変化を原因として血栓形成が発生することが多く,閉塞性動脈硬化症,閉塞性血栓血管炎(Buerger病),血管炎(大動脈炎)などにもみられる.血液濃縮や血液凝固能の亢進による場合もある.
②塞栓症(embolism):心疾患(弁疾患,心筋梗塞など)に起因することが多く,特に心房細動を呈する場合が多い.時には中枢側の動脈瘤・動脈硬化壁の血栓や粥腫が遊離する場合もある.多発性であることが少なくない.末梢の分岐部にとどまることが多く,ことに腹部大動脈腸骨動脈分岐部を閉塞するsaddle embolismは劇症となりやすい.
③急性大動脈解離:解離腔(偽腔)が腹部大動脈から総腸骨動脈へ進展することよって生じる.四肢の阻血症状が顕著な場合,それに気をとら