診療支援
治療

ヘルニア
hernia
村田宣夫
(帝京大学教授・医療技術学部)

A.疾患・病態の概要

●ヘルニアとは先天的・後天的な原因で生じた組織の間隙から臓器や組織が脱出している状態を指す.生体の様々な部位で発生する.体表から見える外ヘルニアと体表から見えない内ヘルニアに分けられる.内ヘルニアには食道裂孔ヘルニア,網嚢孔ヘルニア,横隔膜ヘルニア,傍十二指腸ヘルニア,盲腸窩ヘルニア,S状結腸間膜ヘルニアなどがあるが,本項では腹部の外ヘルニアについて記述する.

●腹部でみられる外ヘルニアには鼠径部ヘルニア,閉鎖孔ヘルニア,腹壁ヘルニアがある.鼠径部ヘルニアには外鼠径ヘルニア,内鼠径ヘルニア,大腿ヘルニアがあり,腹壁ヘルニアには腹壁瘢痕ヘルニア,白線ヘルニア,臍ヘルニアがある.

●腹圧がかかると腸管などヘルニア内容が腹壁から皮下に脱出し,皮下の膨隆として観察される.この際の症状は全くない場合もあるが,軽い不快感,痛みを感じることもある.

●鼠径ヘルニアは成人でも頻度が高いが,小児では特に頻度の高い疾患の1つである.

●閉鎖孔ヘルニアは大腿内側に脱出するヘルニアで高齢の女性に発生し,嵌頓をきたしやすい.嵌頓しても体表からは腫瘤を触知できない.大部分がイレウスとして発症する.

●ヘルニアの重篤な合併症はヘルニア嵌頓であり,膨隆部の強い疼痛,さらに悪心,嘔吐などイレウス症状がみられる.腸管壊死に至った場合には,生命に危険を及ぼすこともある.ヘルニア嵌頓は迅速な治療が必要である.


B.最初の処置

 局所の診察の前にヘルニアにおいても全身状態の観察が優先する.ヘルニア嵌頓でイレウスをきたし,頻回の嘔吐などで脱水,あるいはショックに陥っていることがあり,その場合にはショック対策を行いながら診察を進める.以下,病態別に記述する.

①全身症状がまったくなく,局所症状も軽いケース:腹痛がなく,腹部の限局性膨隆だけを訴えてくる場合には,問診と膨隆局所の観察で診断がつくことが多い.ヘルニアの3

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