A.疾患・病態の概要
●破傷風は,破傷風菌(Clostridium tetani)によって起こる感染症で,主な病態は破傷風菌によって産生される菌体外毒素(神経毒:テタノスパスミンtetanospasmin)により起こる神経症状で,いまだに死亡率の高い疾患として重要である.
●破傷風菌は偏性嫌気性のグラム陽性桿菌で好気的な環境では生育できないが,熱や乾燥には抵抗性が高く芽胞を形成する.破傷風菌の芽胞は世界中の土壌中に広く分布常在しており,誰でもどこででも感染の可能性がある.わが国でも1950年には年間2,000例近い報告患者があり,80%以上という高い死亡率であった.しかし,破傷風トキソイドワクチンによる基礎免疫(発症阻止抗体価0.1IU/mL以上)の取得により発症は阻止できることが疫学的に示されており,感染症法改定により全数把握の対象である五類感染症に指定されて以降でも年間報告例は100例前後と少なくはなったが,報告例はすべての都道府県からある.一度発症すれば,死亡率は20~50%と依然として高い.不衛生な出産により臍帯から感染する新生児破傷風は,わが国では1995年以降報告がないが,世界的には新生児の主要な死因となっており全世界では年間50万人以上が破傷風で死亡している.
●破傷風は土壌などに常在する破傷風菌の芽胞が創傷部から体内に侵入し感染するが,破傷風菌は偏性嫌気性菌であるので嫌気的環境でのみ増殖する.異物や挫滅組織,dead spaceを残さない創傷処置が大切なゆえんである.破傷風の死亡率が高いのは,菌体そのものによる傷害ではなく破傷風菌の産生する外毒素(テタノスパスミン)が神経組織に結合して起こる中毒症状のためである.テタノスパスミンは,血行性に神経筋接合部に到達し運動神経軸索内を逆行し脊髄前角や脳神経核で神経シナプスに結合することで,神経終末からの抑制性伝達物質の放出
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