診療支援
治療

児童虐待
child abuse and neglect
境野高資
(国立成育医療研究センター・総合診療部救急診療科)
奥山眞紀子
(国立成育医療研究センター・こころの診療部部長)

A.児童虐待とは

●わが国の児童虐待防止法において「児童虐待」とは,保護者が監護する18歳未満に対し行う表1の4つの行為と定められている.

●同法では医師・保健婦・その他児童福祉に職務上関係のある者が児童虐待を発見しやすい立場にある事を自覚し,早期発見に努め,発見した際は速やかに通告する義務があることを定めている.なお刑法の秘密漏示罪,守秘義務に関する規定は児童福祉法の通告義務を妨げない.

●医療機関および医療従事者には,疑い例を含む児童虐待を見逃すことなく的確に診断し,心身の重症度判断と治療を開始しつつ関係機関と連携し,医学的見地から児童を守ることが求められる.


B.最初の対応

①児童虐待は「疑わなければ診断することのできない予後不良の救急疾患」である.救急医療現場では児童虐待例,疑い例に遭遇する機会が多く,小児外傷はもちろんのこと内因性の主訴であっても,経過に納得のいく説明がつかない症例では虐待を鑑別に挙げる必要がある.極めて煩雑で多忙な救急医療現場では,児童や保護者の異和感に気がついていても,トラブルや時間を取られてしまう恐れからそれを放置してしまう危険性が高い.しかし救急医療機関を受診する段階は,すでに児童虐待が進行しており,発見,介入の機会を逃すと高度障害や致死的転帰をきたしうる(図1).異和感の放置を回避するためには,児童虐待の特徴を正確に認識しておくことが基本かつ重要な原点である.

②疑い例,確診例ともに児童虐待の個人的確定診断は避けるべきである.常に他の診療スタッフと合議し,多角的視野に基づいて診断する必要がある.そのためには,院内に専門の虐待対応チームが常設されていることが望ましい.

③身体的所見・心理的所見と共に,児童や保護者の言動を,経時的かつ細かに診療録へ記載する.特に養育環境や罹患・受傷形態などを医学的根拠に基づき詳細に記載する必要がある.また外傷痕などの身

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