A.診療のポイント
●口腔内の疼痛は歯が原因のことが多いので,原因となる歯の存在を確認する.
●炎症性の腫脹があるときは,嚥下障害の有無に注意.腫脹によって舌を挙上したり,咽頭を圧迫するときは気道閉塞を起こす可能性を考える.
●打撲後の咬合の異常は顎骨の骨折を疑う.顎関節部の骨折は見落としやすいので注意する.下顎の運動の異常が認められることが多い.
●歯牙の脱臼は,清潔に湿潤状態で保たれていれば整復固定により生着することが多い.
●抜歯後の出血は骨から直接出血していることが多い.持続的出血は思いのほか出血量が多いことがあるので,いつから出血があったかなど注意を要する.
●歯科治療の事故などで異物片が口腔底や顎下部に迷入した場合は異物の場所の特定を急ぐ.
B.最初の処置
①激痛で救急を受診する場合は,急性の歯髄炎のことが多い.歯科医師であれば歯髄の開放で疼痛は改善するが,医師の対応であれば鎮痛薬処方で対応するしかないが,効果は弱い.三叉神経痛の激痛の場合は,該当領域の局所麻酔が一時的には奏効する.
②明らかな炎症性腫脹の場合,発赤と腫脹がみえる.圧すると激しい疼痛を自覚するが,危険となる内側へ腫脹がある場合は,舌の運動障害や嚥下の際の痛みが認められる.側咽頭の腫脹では口蓋垂が左右一方へ偏位する.膿瘍切開が必要となる.
③顔面外傷の場合は頭部に近いため,意識障害があったかなど,脳の損傷の判断が先に必要である.
④歯牙の完全脱臼は清潔に湿潤状態で保管されていれば,元の位置に再植する.隣接歯を固定源として1週間以上固定する.
⑤止血しにくい抜歯後の出血については,抗凝固薬の服用や肝機能障害など既往歴に注意しながら,まずはガーゼを咬ませて創部を圧迫する.
⑥異物片の迷入については,触診とX線で場所の特定と安全性に配慮する.
C.病態の把握・診断の進め方
1鑑別診断
1疼痛 原因が歯にあるか確認する.歯を軽く打診して