A.病態と診断方針
1多発外傷とは
●一般的に「頭部,胸部,腹部,骨盤・四肢など身体の2か所以上の部位に発生した重度の外傷で,放置すると生命に危険を及ぼし,何らかの緊急処置を必要とするもの」といわれる.他に,「AIS(後述)における重症度3以上の外傷を頭部,顔面・頸部,胸部,腹部,骨盤,脊椎,四肢の7部位のうち2部位以上受けたもの」と定義する場合もある.
●多発外傷の診療手順はJATECのprimary surveyのABCDEアプローチに則って生理学的異常を評価し,蘇生を行わなければ生命に危険が及ぶ部位から処置を行う.見方を変えれば,「多発外傷」の診断は初期診療が完遂するか,もしくは診療を進めて行く途中でなされるものともいえる.
●ポイントは受傷機転から「多発外傷」の存在を疑うことと,「多発外傷」と診断した時点で治療の優先順位を考慮しながら呼吸・循環を安定させる方略を遂行することである.
●多発外傷では,外傷の組み合わせが多彩であり,同様な損傷形態でも病態が異なれば治療方針も違ってくるため,あらゆる症例に適応できる標準的な治療法はないと考えてよい.損傷が身体区分の複数部位に存在することで,診断や治療が複数診療科におよび,その上で優先順位を決定しなければならない.
●よって,多発外傷の診療にあたっては効率的に治療を進めるために,専門分化した各科の医師の診断治療を統括できる救急専門医あるいは外傷専門医の存在が不可欠である.
●後述する重症度評価は急性期治療の終了後になされるもので,治療の優先順位の決定に用いられるものではない.
B.外傷患者の重症度評価
1Revised Trauma Score(RTS)
外傷患者の生理学的重症度を表す指標である.病院搬入時の意識レベル(Glasgow Coma Scale:GCS)と収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)と呼吸数