診療支援
治療

腹部外傷
abdominal trauma
金子 直之
(東京医科大学准教授・救急医学)

A.病態

●大別すると,病態は出血と腹膜炎である.

●腹腔内出血は出血性ショックの最も多い原因である.

●出血をきたす臓器は主に肝・脾・腸間膜・腎である.

●腹膜炎をきたす臓器は主に消化管であるが,特殊なものとして膵損傷による膵液漏出や胆道損傷による胆汁漏出がある.

●鈍的外傷による内臓損傷は,交通事故のような高エネルギーで発生することが多いが,殴打や,自転車での転倒など比較的軽微な外力でも発生し,また腹部を直接打撲していなくても,墜落など慣性で腹部臓器を牽引する外力が働いた場合は発生する可能性があることに留意する.

●鋭的外傷は,わが国では自殺企図の包丁による刺創が最も多い.


B.初療と重症度判断

1初療室で

1腹部外傷が疑われる患者 まず20Gより太い留置針で末梢血管確保を行い,細胞外液を投与する.同時に体温,動脈血液ガスと末梢血血算,生化学データを測定する.体温が36℃以下の場合は保温し,室温も上げたほうがよい.

2意識障害・ショックをみる 意識障害の有無,ショックの有無でその後の対応が変わるので,これらの2点を把握する.呼吸障害を伴っている場合はその処置を最優先する.

➊意識障害を伴っている場合:特にJapan Coma Scale(JCS)3桁の患者では腹部外傷を示唆する一般的な理学所見,すなわち圧痛・反跳痛・筋性防御の所見が取れず,また蠕動音の性状聴取は参考にならないので行わず,ショックの有無により対応を変える.

➋意識障害がない場合

①理学所見を丁寧に把握する.自発痛がまったくなく,理学所見にも異常がなければ腹部外傷は否定的であるが,膵損傷や腎損傷の場合,深く押すと圧痛を認めたり,あるいは腰部の叩打痛のみが初発症状の時もあるので注意する.

②一方では,限局した圧痛は単に打撲挫傷部の痛みを訴えていることがあり,これと臓器損傷を示唆する圧痛を混同しないように留意する.

③自発痛,理学所見の異常

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