診療支援
治療

刺創
stab wound
奈良 理
(手稲溪仁会病院救急科部長・救命救急センター副センター長)

A.病態

●刺創(stab wound)は銃創(gun shot wound)とともに鋭的外傷に分類され,わが国では包丁(ナイフ)によるものが最も多い.刃物以外の比較的鈍的構造物による刺創を杙創(impalement wound)という.

●鋭的外傷は鈍的外傷(blunt trauma)に対比される用語であるが,欧米では穿通性外傷(penetrating trauma)という用語が用いられる.

●鈍的外傷は損傷が複数部位に及んでいる可能性があり,損傷部位の確定が困難な場合があるが,刺創は損傷部位の確定が比較的容易である.

●刺創による損傷臓器は,成創器の種類(形状や長さなど)や刺入部位,角度や深度に依存し,表在の刺入創から解剖学的に線上に位置する臓器が損傷される.

●刺創の重症度は脈管,実質臓器や管腔臓器の穿通の有無や程度に依存する.

●刺創部位の解剖を熟知することが,診断と治療に直結する.

●成創器が刺さったままであることによって症状が顕在化せず,一見病態が安定している場合がある.

●生命に危険を及ぼす緊急的な病態は,気道系の損傷による低酸素血症や血管や実質臓器損傷による出血である.


B.初期診療(重症度判定)

1初期診療

 刺創を含む鋭的損傷でも,外傷患者へのアプローチは外傷初期診療指針であるJATECやATLSなどのABCDEsアプローチに従って行う.ABCDEsに関して刺創に特化した部分を以下に抜粋する.

①ABCDEsアプローチの前に成創器が刺さったままの場合には,原則として成創器は損傷の診断が確定するまで,あるいは方針決定まではむやみに抜去しない.また診療の最中に抜けたり,ずれたりすることがないように注意し,必要があればその防止のために成創器を固定する.

②頸部や胸部に刺創があり,成創器はなく創から空気が吸引される,いわゆるopen sucking woundが存在する場合には,A,Bの

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