診療支援
治療

銃創
gun-shot wound
益子邦洋
(日本医科大学教授・千葉北総病院救命救急センター)

A.病態

●銃創(射創)は米国における殺人事件の最も主要な手段であり,毎年約7万人が受傷して約3万人が死亡している.一方,銃刀剣の所持が厳しく規制されているわが国では,銃器発砲事件による死者数はわずかである.警察白書によれば平成20年で10人が報告されているに過ぎないが,猟に使用される散弾銃による銃創例は後を絶たず,決して無視できない外傷形態である.

●銃創に伴う病態は,銃の種類(ライフル銃,散弾銃,拳銃など),火器と生体との距離,創の解剖学的位置により異なる.一般には,弾丸の持つエネルギー,損傷を受けた臓器・組織,弾丸の最終的な位置の3要素が銃創の重症度を規定するといわれ,生体が受けるエネルギー量は下記の式で表される.

  KE=1/2mv2

  (KE:動的エネルギー,m:弾丸の質量,v:弾丸の速度)

  したがって,弾丸の質量が大きいほど,またそれ以上に高速度の弾丸ほど,組織破壊が大きい.銃創の解剖学的位置関係は予後を規定する最も主要な因子であり,たとえ低速度であっても頭部の銃創は,四肢の高速度銃創よりもはるかに生命の危険を伴う.心,大動脈,肺,肝,脾,腎などの重要臓器の銃創では,短時間の内に出血性ショックや低酸素血症をきたして死に至る.

●銃創によって引き起こされる組織損傷の形態には,一次的空洞形成と永久空洞形成がある.一次的空洞は弾道から生じる張力モーメントによって形成され,弾丸速度が速くなるほど大きなものになる.一方,永久空洞形成は弾丸自体の挙動によって形成され,そのメカニズムは以下の4つが挙げられる(図1).

①ヨーイング:弾丸が弾道上を揺れながら進行すること.

②タンブリング:弾丸が弾道上を回転しながら進行すること.

③変形:弾丸が生体内でマッシュルーム状に変形し,先進部の面積が増大すると,組織破壊も高度になる(ハローポイント弾,ソフトノーズ弾,ダムダム弾など).

④破砕:高

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?