診療支援
治療

熱中症
heat illness
松尾信昭
(神戸夙川学院大学教授)

A.疾患・病態の概要

●生体は視床下部にある体温調節中枢により熱産生と放熱の調節機構が働いて,37℃前後の体温に保たれている.熱中症は暑熱環境,高温環境における身体の体温調節障害によって起こる状態の症状の総称である.

●環境因子によって発症するため気象条件,発生した場所,発生状況などの病歴聴取が診断に最も重要である.7月中旬から8月上旬に発生件数が増える.発生機序により労作性熱中症(exertional heatstroke)と,非労作性(古典的)熱中症(classical heatstroke)に分類される.

 ①労作性熱中症:高温多湿環境下での激しいスポーツ(若年男女が多い)や労働作業(中年男性が多い)などの肉体労働で生じる.

 ②非労作性熱中症:暑熱環境に適応力の少ない小児や高齢者に多くみられる.屋内発症例は,精神疾患や高血圧,糖尿病などの既往を認め重症例が多い.熱帯夜にクーラーをかけずに就寝し夜間に発症することもある.小児では夏,車内放置にて発症するケースがある.

●日本神経救急学会が提唱する熱中症の新分類(一部改変)を表1に示す.従来,日射病(sun stroke),熱失神(heat syncope),熱痙攣(heat cramp),熱疲労(heat exhaustion),熱中症(heat stroke)などの用語が使用されてきたが,翻訳語であるため語句の混乱がみられた.新分類は臓器障害と入院治療の必要性により重症度が表わされている.

●急性期の治療が生死・予後を分ける.適切な診断がなされれば,初期からの治療によく反応する.症状は非特異的なため,確定診断に至らずとも発症の状況や環境条件から熱中症を積極的に疑い対応する必要がある.


B.最初の処置

 処置を開始するとともに病歴把握とバイタルサインの確認を同時に進める.

1可及的速やかな冷却

‍ 表2に種々の冷却法を示す.熱中症Ⅰ度

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