診療支援
治療

偶発性低体温症
accidental hypothemia
中野 実
(前橋赤十字病院・高度救命救急センター長)

A.疾患・状態の概要

1定義

 意図されずに深部(中心部)体温が35℃以下になった病態.

2分類

 深部体温による重症度分類は一定していない.軽症・中等症・重症の3段階が多いが,軽中等症・重症の2段階もある.境界温度も,軽症と中等症で34℃,33℃,32℃,中等症と重症で30℃,28℃と様々である.おおむね軽症と中等症の境界は32~34℃,中等症と重症の境界は28~30℃といえる.

3病態

 体温低下に応じ,臓器系の機能低下がみられる.

1中枢神経系

①軽症:軽い意識障害,腱反射亢進,感情鈍麻,運動失調,構音障害.

②中等症:意識障害,腱反射低下,無関心,錯乱・幻覚.

③重症:昏睡,腱反射消失,瞳孔散大,平坦脳波.

2呼吸系 軽症で,頻呼吸.中等症で,徐呼吸.重症で,呼吸停止.

3循環系

①軽症:頻脈,高血圧.

②中等症:心拍数軽度低下.洞房結節機能・刺激伝導系異常によりPQ・QR・QTSの延長,T波逆転,種々の不整脈がみられる.心房細動,J波(Osborn wave)は32℃以下で出現しやすい.

③重症:心拍数著明低下,低血圧.閾値低下により心室細動が誘発されやすくなる.15℃以下では心静止.

4血液凝固系 体温低下とともに凝固異常.

5消化器系 中等症低体温以下でイレウス.

6骨格筋

①軽症:戦慄(shivering).生理的合目的な熱生産反応である.

②中等症:体温調節機能低下により戦慄は消失.

③重症:筋硬直.

7代謝系 基礎代謝量低下とインスリン分泌低下により高血糖となる.一方,長時間の戦慄,または体内の熱源物質貯蓄量の低下がある慢性・消耗性疾患の存在で低血糖ともなる.

8その他 軽症で,尿細管の再吸収低下による寒冷利尿.毛細血管の透過性亢進.

4原因

 熱喪失増大,熱生産不足,および複合により,喪失量が産生量を上回ると低体温となる.

 熱喪失増大は,低温環境下の曝露や浸水などの環境因子が大きく関与し,熱放散・熱対

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