A.適応,合併症,ピットフォール
気道の確保は,用手的気道確保,エアウェイなどの機器を用いた気道確保,確実な気道確保としての気管挿管法が一般的であるが,それらの非観血的方法では気道が確保できない症例では,外科的気道確保を考慮する.図1図に外科的気道確保の適応に至るフローチャートを示す.気道の閉塞,無呼吸や低換気,低酸素血症,ショック,意識障害など,確実な気道確保を要する状況で,気管挿管が困難な場合が適応となる.具体的には,高度な顔面損傷に伴う口腔内出血,頸椎損傷などで喉頭展開が困難な症例や,喉頭・声門浮腫のために気管挿管が困難な場合などである.
外科的気道確保の方法には,①輪状甲状間膜穿刺法,②輪状甲状間膜切開法,③気管切開法があるが,このうち気道緊急の現場で施行される気道確保の方法は前二者である.気管切開法は頸部を後屈した体位を要し,手技を完遂するまでに時間を要することから,気道緊急における外科的気道確保法としては不向きである.
輪状甲状間膜穿刺法は,救命のための緊急処置として他の非観血的気道確保が不可能な場合,禁忌はない.しかし,後述する高圧ジェット換気のデバイスがなければ,気道抵抗が高いため,十分な換気はできず,高二酸化炭素血症をきたすため,可及的速やかに他の外科的気道確保の方法に代換する必要がある.一方,輪状甲状間膜切開法は,12歳以下の小児症例では,気道径が小さく,気道内腔の開存に甲状軟骨が大きく関与するため,声門下狭窄をきたしやすく禁忌である.
合併症は,皮下組織への迷入,頸部臓器損傷,出血・血腫の形成,誤嚥,皮下気腫・縦隔気腫・気胸などが起こりうる.外科的気道確保が求められる状況下では,手技の失敗は,低酸素血症によるさらなるダメージをきたすため,手技の十分な理解と必要機器の整備が重要であり,普段からシミュレーションをしておくことが望ましい.