診療支援
治療

酸素療法,器械的換気
oxygen therapy/mechanical ventilation
井上貴昭
(順天堂大学救急災害医学先任准教授・浦安病院救急診療科)

A.適応,合併症,ピットフォール

 酸素は生体の正常な機能・生命の維持に不可欠な物質であり,その酸素供給が不十分となり,細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素血症という.低酸素血症に対し,吸入する酸素濃度を高めて適量の酸素を投与する治療法が酸素療法である.外傷を含め,心肺蘇生に至るまで,すべての蘇生において,酸素投与・酸素療法は治療の基本となる.この際,酸素療法が有効であるのは,原則的に自発呼吸が十分に確認できる患者であり,無呼吸あるいは,自発呼吸が不十分で十分な酸素化・換気が維持できない症例は器械的換気の適応となる.従来,気管挿管が器械的換気の絶対的適応であったが,NPPV(non invasive positive pressure ventilation)の器械が普及した現在,顔面に密着させたマスクを用いての器械的換気が可能となった.心原性肺水腫や慢性閉塞性肺疾患の急性増悪症例における有用性が確認された一方で,肺炎による呼吸不全症例には逆に有効とはいえず,その適応は今後慎重に検討される必要がある.

1酸素療法

①酸素療法は,低酸素血症を疑う症例に投与する主に急性期ケアとしての適応と,慢性閉塞性呼吸器疾患に代表されるように慢性期ケアとしての適応の双方が存在するが,本項では急性期ケアの適応を詳述する.

②酸素療法の第1の目的は,組織に十分な酸素を供給するために,吸入酸素濃度を増加させ,動脈血酸素分圧(PaO2)を正常に保つことである.したがって,急性期の酸素療法の適応は,低酸素血症(PaO2<60Torr)あるいは低酸素血症への進行が予測される症例,または生体に侵襲的な処置が加わる場合や,重症外傷・ショック時も適応となる.

③禁忌は蘇生を要する緊急の現場では原則的にはないが,パラコート中毒や脳梗塞症例など,高濃度酸素療法によるフリーラジカル産生が原疾患を増悪させる可能性がある

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