診療支援
治療

脱臼整復法
manipulative reduction of traumatic dislocation
山本啓雅
(大阪市立大学大学院准教授・救急生体管理医学)

A.脱臼とは

 救急領域で扱う脱臼は外傷性脱臼である.外傷性脱臼とは,関節が生理的な可動域を越えた運動を強いられ,関節包の一部が破れ,この破れ目から骨頭が関節外に逸脱するものをいう.完全に関節面の接触が失われた状態を完全脱臼,関節面が一部接触しているものを亜脱臼と呼ぶ.脱臼の状態の表現は,中枢関節端を基準とし,遠位関節帯の移動の方向により,前方脱臼,後方脱臼,上方脱臼,下方脱臼のようにあらわす.


B.脱臼の症状

 完全脱臼では当該関節の変形を生じるため,各脱臼に特有の肢位をとることが多い(図1).関節を固定していれば疼痛は比較的軽度であるが,自動運動は不能となり,他動的な関節の動きが生じると著明な疼痛が生じる.当該関節には弾力性のある抵抗が触知されることが多い(ばね様固定).


C.脱臼診療時のピットフォール

1十分な筋弛緩

①脱臼の整復にあたり,最も重要な点は患者をリラックスさせ整復の阻害因子となる筋肉の緊張を取り除くことである.患者と会話しながら愛護的な整復操作が必要である.

②筋肉の緊張を取り除けない場合は,迷わず局所麻酔や全身麻酔を用いて整復する.

2整復実施時期

①脱臼は速やかに整復するのが望ましい.整復せずに放置すると関節包の瘢痕化を生じ,徒手整復不能となる.

②また整復が遅れると,股関節脱臼では大腿骨頭に,肩関節脱臼では上腕骨頭に骨頭壊死が発症するリスクが増大する.

③外傷性骨頭壊死を予防するためには12時間以内,遅くとも24時間以内に脱臼を整復することが原則である.

3X線撮影

①脱臼の種類(方向)や合併骨折の有無を判断するためには,少なくとも2方向の単純X線撮影が必要である.

②整復後に骨折が判明しても受傷時からのものか,整復操作によるものかがわからず説明に苦慮する.

③脱臼整復後にも再度2方向の単純X線撮影が必要であり,整復操作による新たな骨折合併の有無,整復の状況を確認する.必要で

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